親愛なる君へ
今世の栄華を極めた人間は、かつて救いを求め讃えた神の座標へ自分たちこそが到達したことを示そうとする傲慢に満ちている。
その傲りの一つして、撚りをほどいた禁忌のひとつである生命の複写創造――クローン技術は長らく低迷していた。
人間のための秩序を創造し、人間のための秩序に則り、人間のための繁栄してきたからこそ、勝手に築いた生命の最も美しい在り方に囚われ、人間はついぞ立ちはだかる倫理に高く囲われている。
泥濘で足を引っ張りあう姿こそがその生物の定義を人間であるとたらしめていることに気付かないまま、"倫理の檻"の中で分裂を起こしているのだ。
白飛びするほどに注ぐ晩夏の光を木下闇のベンチから見ていた若い男は、遠い過去を語るように目を伏せる。
私は静かにそれを聞いていた。
「瞼を閉じること、光に目を焼かれること、他の術を求めて彷徨うこと。
それらは等しくすべて人間……いや、すべての生命のために与えられた祝福であるのさ」

――秘密裏に技術研究が続けられていた某所にて
とある研究員が、公のための倫理上では明るみに出すことのできない技術の研究資料と、発表を控えていたクローン生命体における延命と経過観察の記録を含む論のすべてを破棄した。
そして成体まで記録を続けることに成功した数少ないケースであるヒトクローン検体を連れ出して逃亡をしたのだ。
情報が漏れだすことそれすなわち、国家単位での倫理の理解・解釈程度と軍事情報を含む機密の漏洩である。
腹の探り合いを水面下にしているばかりに公の国際指名手配ができない事実を良いことに、研究員と成体クローンは"倫理の檻"を認識しながらもクローン技術を神への冒涜として目を閉じて過ごす大勢の人間が居る世界に紛れ、静かな暮らしを始めるのだった。



"愛は永久不滅であり――
姿かたちを変えることはあれど本質は決して変わらない"
いかなる時も君の幸せを祈っている。

Kissing the decaying anemone.
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From the garden where the zion blooms.
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You are coloured by kalanchoe.
and I will colour you in the same way.
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Angraecum will not bloom in this life.
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Fold Statice in its hands.
And take my temperature in your hands.
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この作品は近未来世界を舞台にした広義のローファンタジー作品です。
テーマの都合上で描写する内容は実在の国や思想、及び関連団体・企業に一切の関係はございません。
また、実在するそれらを貶める目的としての描写の意図ではございませんのでご了承の上でおたのしみください。

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image photo by Aedrian(from Unsplash)