「それから祐君の要望は今すぐとなるとちと難しいかもしれんな。その代わり、希望があれば早めに連絡手段をつなごう」
 いくつかの確認を終えて伊三路の交渉が叶ったのち、喜一郎は顎をさすって呟く。
機密事項まではないと思われていたが、確かに不都合がないかを確認せずにおいそれと貸して何かが起こるよりは慎重で行くべきである。
今すぐは難しくともたしかな約束を取り付けることができればこの場でなくとも構わないと考えていた祐にとっては問題のあることではない。
しかし、次の言葉を聞くと事情は変わった。
「と、いうのも君が見たがっているであろう資料はちょうどそっくりそのぶん、まさに二人目の男が郷土研究と称してあずかっていったのだ。あれはこの町の記録の大部分において蛇足として語弊ないと思っていた時だったからな、貸し出してしまったのだ。記録も私よりいくらか前の代で終わっていたためというのも理由の一つだ。うん、大体、ここ五、六年以内の出来事だな」
率直に落胆したことは語るまでもないことであったものの、喜一郎のばつの悪そうな表情に加えて代替案まで先回って出されてはがっかりしたとはとても言えなかったのである。
故に「そう、ですか」と、か細く返事をする。ほかに言うことが思いつかなかったのだ。
連絡手段を繋ぐと申し出ている時点でそれにのればよいのかとも考えたが、喜一郎がその人物を説明するほど祐の表情は険しくなる一方だった。
「名を淵東七助(えんどうななすけ)という。君たちより一回り以上は年上だが、剽軽でじじくさいという意味で気さくな人間だ。やつの様々なスイッチには私にもよくわからんところはあるが、一般的には気難しくはない。手始めに電子メールでも飛ばしてみるか?」
 携帯画面上のテンキーで文字を入力するような手振りで親指を上下させながら喜一郎は伺いを立てる。
差しのべられた手段の提示にも関わらず、祐は長らく黙っていた。視線を伏せ、無意識に口角よりも少し上に位置するあたりの皮膚を人差し指で撫でる。
 記憶の上ではほぼ確実に対面という形式で出会ったことのない人物であるが、その名をなぞったことはある気がしていたのだ。
その感覚がある。聞くのは初めてではない気がする。
そうだとしたら、一体どこで。偶然に名を見かけたのだろうか。ならば、何の用件で?
思考を巡らせる。
唇が歪む動きで僅かに隆起する頬の感覚が添えた指先の生地越しに伝わっていく。
脳の広い場所にその名を紡ぐ音を並べて近しい漢字を持ち寄る。
少なくとも、"ななすけ"という音には覚えがあるような気がしたのだ。
同じくして自身の中に名を覚えている著名人に同音の字を持つ人物はいないところから、それだけはたしかと思えていた。
知っているとしたら、身近な場所で見聞きしたはずなのだ。
次第に「はず」は「たしかに」へとゆるやかに形を変えていた。
「えんどう? ななすけ……えん、とう、東。えん、淵東、七助?」
 口の中で呟いた名前がゆっくりと思考を覆う。
もしその漢字をあてることができるならばその人物の存在を知っている。
途端に靄が晴れたように黒いノートの存在が思い出されていく。表紙裏に書かれた、ペン先の凹凸だ。
汗がじっとりと滲み出る。あり得ることから過剰な防衛的である突飛ともいえる思考まで、様々な"もしも"の想像が駆け巡るのだ。
 俯いた角度や手元の仕草が何かを考えていると察した喜一郎は助け船のつもりで淵東七助という人物の情報を付け足す。
「出身校は君たちと同じところだし、彼の実家は商店街はずれの駄菓子屋商売だ。取扱いでいえば生活用品店というのが正しいかね。まあ、出入りする層である子どもにもっぱら親しみがあるだろうから、どこかで聞いたのかもな」
喜一郎の語り口とは反対にその聞き覚えの答えが、少なくともこの町の人間が一般的に彼の名前を聞く状況と異なることを思い出した祐は歯切れ悪く返事をした。
まだ答えに辿り着いていない伊三路が祐の横顔を見ながら不思議そうな顔をしている。
「ああ、いえ。その、淵東七助さんは、盆と正月ごとの多くは戻られるかたなんですよね? 向こうにも生活があるでしょうし、何かとお忙しい世代でしょうから、まず他の手段を模索しようかと思います。空振りに終わることのほうが早ければその際にお願いできませんか」
「いいだろう。承知した」
疑問の根元が食い違う二人の会話は表面上はとりとめもなく、一般的なやりとりとして過ぎていく。
 話題の人物についての情報を一部共有していると、喜一郎の胸元で軽快な電子音が鳴りだした。
真剣に言葉を交わす静かな空間を割いて突如つんざいた音に伊三路は飛びはね、喜一郎は胸元から顔をそらしたがって首を曲げた。祐もまた、驚きを浮かべて目をぱちくりとしている。
しかし各々の反応など露知らずとして携帯の電話機能における着信をしせるために延々と同じ音は繰り返されているのだ。
喜一郎が慌てふためきながら着信を受け取るためやメール画面を開く操作手順をメモした不透明のビニルテープが貼りつけられた本体を持ち、たどたどしい手つきで画面を確認する。
そして発信元の登録名をみた喜一郎はすぐに電話にでることを詫びると、一生懸命に電話を取るための操作を行い部屋の隅へよっていく。
視線で彼を見送ってから、ちょうどいいといわんばかりに伊三路はそうっと祐に近寄る。訝しむ目つきを向けられながらも傍に寄ることを許されると、内緒話をするかのように口元を手で半分覆いながら囁いた。
「祐、表情がかたいけれどもどうしたの。差し込み?」
「差し込み? 違うが」
そのあまりにのんびりとした様子にむしろ自身が面食らった祐は、伊三路の発言を復唱しながら信じられないという形相でその顔を見る。
改めて「はあ?」と驚きと呆れが入り混じった息遣いが抜ける。思わせぶりなことにも「違う」とは言い切らず、「が」と、音が続いてまるで今後に文節が続くような尻切れになるのだ。
「それじゃあ?」
続きを発することない様子に伊三路が心配の色を濃くして促す。
祐は自身が考えすぎなのかと一瞬の迷いを生じさせたものの、素直に自身の考えを打ち明けた。
「えんどうななすけ。お前、彼の名にあてる字を、距離を表す『遠い』という字に植物の『藤』と想像しなかったか」
「え、うん。遠藤ってことでしょう? それが一般的ではないかなあ?」
 人差し指を忙しなく動かした伊三路は空に"遠藤"と描いてみせ、何度も頷く。
そして「それ以外の漢字は聞いたことがないもの。思いつかないよ」と首を傾げるのだ。
「俺もだ。が、音だけ聞けば正しい書きとりかたまではわからないのも事実だ。結論ありきと言われる可能性は承知の上で、心当たりを言うが」
「うん? どうぞ」
「"ふち"と読むほうが生活に近い単語が多いが"えん"や"ふかい"の"ふか"の部分としても読む。ふち、えん、ふかい。それから別の字を指すが、ひがし。とう、あずま。それぞれを一般的な読みで組み合わせて自然に読めるとすれば"えん・とう"。訛りやそのた諸説を理由としても、音が濁って、"えんどう"には充分になりうる」
「むつかしい話ではないね。でも、待ってよ。ふちって? どこからきたのだっけ」
 目尻が不思議そうにその曲線を膨らませてきょとん、とするほど、祐の目は据わっていった。
そこに特筆して目立つ感情があるというのならば、それは呆れである。
こまねいた腕を解き手振りをしながら整理して語る祐の指先の高さにつられて顎を上下する伊三路は、その全容を掴もうと前のめりになって話を聞いていた。
「お前が以前に見せてきた黒いノート。忘れたか。持ち主の名前も"ななすけ"か"しちすけ"と読みそうな漢字だ。一郎、二郎のような名付けにしても、連番で七までいくものか? 率直に言って、この時点で無理のあるこじつけをしても俺は彼が"淵東七助"と同一人物との可能性があると考えた」
「でも、おれに一応と話すくらいにはそうではないかと思った理由があるということでしょ?」
「ああ。喜一郎さんはその"えんどうななすけ"という人物に長らく更新がない資料ということもあって貸したとも言った。つまり、貸すことができないものもあるということだ。借りられないならば頻度を増やして見に来る、のではなく、借りられる資料ならば構わずまとめて借りていく。その後、頻繁に連絡をとっている様子がなさそうな部分を拡大解釈するなれば、彼が"二人目の人物"であること含め不可思議の分野に絞って郷土研究をしている可能性はないか? そもそもそれ以外の資料が必要ないんだ。ちょうど、"そっくりそのぶん"さえあればな」
伊三路が頷くまでの感覚がどんどん長くなり、代わりに眉間に皺がよる。目は険しくなっていく。
「それに"一回り"の例えが干支換算であり、彼が大学進学までしていると仮定しても研究というほどのものを継続しているならば、茅之間町か近辺で就職をしたほうが利便性があるはず。言ってしまえば彼には家業を継ぐ選択肢もあるはずだ。正確な情報は持っていないために都合の良し悪しに依存した推測でしかないものの、就職活動より早く研究とよべるほどのそれに着手していたとして時間の辻褄が合致するならば、尚更あやしく俺は思う。帰省の頻度で貸出不可を閲覧するならば進捗は芳しくないだろう。一体何のためにそれらを継続して探っているんだ?」
「名前と言動に一致しうる前提がなければ趣味かもって言えたけれどもね。続けて」と、淡々と返ってきた声音が僅かに低い。
 普段ならばすぐ気になる情報を書きとっているであろう手元がペンとメモを持っていないためか、手持ち無沙汰の指先を擦り合わせては静かに話を聞き続けていた。
その様に無自覚であろうことから話を聞き、時に下唇に触れている。
あのノートの中身をしっかりと読んだことがあるであろう人間は祐の知る限りで伊三路だけである。そのため、内容から察しえる淵東七助の人物像を思い出しているのだと想像して話を続けた。
少なくともこの時点で異論を唱えたくなるような人物像ではないらしいことは祐にも窺い知れたことだった。
「あれがいつの時点で作成された内容かはわからないが、少なくとも蝕のことまで知っていて、接触をも果たしている。そして喜一郎さんの語る"えんどうななすけ"なる人物が本当に数年前から研究しているほどというならば、やはり」
「同一人物であり、同時に危険な可能性のある人物でもある? 楽観するならば協力者たりえるともいえるだろうけれども、前者であると備えるほうがどちら転んだって"らしい"立ち回りができるということさね」
顔を見合わせて肯く。
それらしく言われてしまえば、ふたりのなかで怪しい人物というかたちにその名前は結びついていくのみであった。
「ああ。幸いむこうはまだこちらの存在を知らないだろう。どこまでいっても想像と机上の話ではあるが、わざわざ盆正月と言い表している。長期休暇を中心に帰郷するほうが都合の良い生活をしているはずだ。距離があるだろう。ならば向こうから手は出しにくいといっても甘すぎる考えではない。敵味方関係なくいま持つ手段だけでは下手に近づくべきではない相手といえる」
「うーん。たしかに。紙に漢字を書いてもらえばよかったね。詮索をして喜一郎からうっかりと彼に伝わってもやりにくいし、機会があれば周囲の話から人物像を探ってみよう」
 しっかりと記憶に刻むために繰り返しその名前を口ずさむ伊三路を見つめ、たっぷりと間をとったあとに意を決して祐は尋ねる。
答えにくいことであると言われたら、出過ぎた真似を謝罪して引き下がればいい。
面倒ごとに発展する可能性を恐れず問うた言葉が、もし素直に返ってきたならば、と、いうことはあまり考えていなかった。
「ああ。それから、これは個人的な興味の話になるため無理に答えなくていいが……お前、先ほど喜一郎さんに何を言ったんだ?」
「おれのやっていることに対して喜一郎や彼の家系に何かの関係があるか、という質問に、おれは直接はないと返したでしょう? 同時に鶴間家側の旧い権力については名が出る部分が少しだけあるって。そこを匂わせる事柄を引き合いにしたんだ」
 単純明快とは叶わずとも、想像に反してあっけらかんと伊三路は答えた。
祐の気遣いによる迷いも空しく、彼にとっては彼が許諾した情報開示の延長にあると言って等しい質問だったのだ。だからこそさっぱりとした口調で答えたのである。
 元より関りはないものの、例えば家柄同士の付き合いに近い関係を持ち出したとなれば深く聞きようがない。
大抵のところ、鶴間喜一郎の家系が記録係としての役割を兼ねるというのだから、例え伊三路の語るような役割との間柄でなくとも多くの家系や組織と少なからず面識があっておかしいことではないのだ。
近い関係を長らく行なっている土地ゆえのやり取りであると思うと、あまりに理解の範疇に及ばない希薄さを貫く祐には言いようがなかった。
それを汲んでから偶然か、伊三路は促されるまえに会話の様子を付け加えた。
「はっきりとしたことは言っていないよ。だから半分は賭けだった。だから、反応の理由ならば喜一郎に聞いたほうがはやいよ。おれがあまり関心のある部分ではないもの」
 喜一郎が戻ってきた、ということを気づかせるように促して祐の肩を伊三路は叩く。
そして横顔のまま声を潜めた。
「彼の名前よりも中身のほうに気がいっていたけれども、そのあたりがややこしくなったら確かに困るはなしだった。ありがとう」
 にんまりと口角を吊り上げた喜一郎は胸ポケットに携帯をしまいながら「待たせたな」と笑った。
緩んだ表情と、笑みに付随してくっきりと浮かび上がる涙袋の陰影から電話の内容は悪いものではなかったらしいことが窺える。
祐はほんの僅かに強張りの名残を浮かべていたが、伊三路は平然と喜一郎を迎え入れた。
「急ぎの用事だった? 話の区切りもついているし、もどろうか?」
その質問に首を縦に振りつつ、さっさと撤退の準備を始める喜一郎は伊三路と祐を立ち上がらせるとうきうきとして答えた。足取りは弾むように軽く、声のトーンも幾分か高い。
「ああ。特急の解決事項だ。夏野も由乃も元気だそうでな。彼女らは暦君と先に家に戻るらしいが、我々に茶だの飯だの用意しておくと騒いで聞かず、困っているという。まさに暦君からのヘルプだったわけだ! ゆくぞ、子どもらよ!」
字面こそ困っているふうの言葉であったが、平時と変わらないまでにより調子を取り戻していると聞いて喜びを隠すつもりもないようだ。
同じく目尻と口角を緩める伊三路が明るい声で伝える。「それはよかったねえ」
「ああ、うちの女は基本的にはじゃじゃ馬だからな。今日のうちにこれくらい元気になれば心配もない。明日はもっと騒がしいほど元気になるだろうよ」
急かしながらも勾配のある階段を慎重に下り、天井板を戻す。一度外した階段はあとでまた使用すると言って押入れのなかに隠して襖をすっかりしめた。
廊下を騒がしく足早に進みながら、喜一郎は笑っていた。
懐中電灯の灯りが差すより早く知った道順をなぞるかのようだった。
「そうだ、二人とも。今日の夕飯はうちで食べていかないかと言われるだろうが、都合は悪くないか? たしかに彼女らはじゃじゃ馬であるが、きっと先の出来事に負い目を感じているのだろう。付き合わせて悪いのだが、どうか我が家の夕飯に同席願いたい」
 話の最中、思い出したようにふりかえり、時計を示すと二人に提案をする。
現にふたりが唐突な申し出に口ごもっていると駄目押して付け加える。そしてできるだけその提案が魅力的にみえるようにいくつかの言葉を思い出したように並べるのだ。
「自慢ではないが、飯の味は保証するぞ。食えないものは強いるようなやつでもないし」
感嘆の声を高くして肩を震わせた伊三路は目を輝かせて喜び、はね上がる勢いで答える。
そして思わず舌なめずりをしたのである。
「おれでよければ喜んで。祐も『前向きに検討する』ことができてよかったじゃない。まさか、夜は食事を摂らない主義とは言わないでしょう?」
 伊三路が意地悪く口を釣り上げると、祐に遠慮の建前をした拒絶をする悪癖があることに覚えのある喜一郎も乗っかる。
卑しく媚を売る悪徳商人のように己の手を揉み合わせ、いかにもご機嫌とりの構図を示してはその下手に出るの態度とは正反対を語るのだ。
「そうさなあ。祐君だってまさか、今や周りと変わらぬじじいな私ではあるが、とくに見知った鶴間の健気な頼みが聞けぬとは言えんだろうて」
「冗談でもやめてください」
「全くのおふざけだけじゃないよ。ね! 喜一郎!」
お前は一体どちらの味方なのだ、という勢いでピシャリと祐が放つ。
「お前が喋るとややこしい。静かにしていてくれ」
息をつく間もない速さだ。
それを語る祐の表情を間近にみた伊三路は唇が捻れそうなほど慌てて口をとじ、その上から自身の両手で覆い隠す。
そして、他意はない。敵対する気もない。と、視線を祐から逸らし、飛び出したばかりの身を引っ込めるのだった。
「確かに、君へはおいさき短い老人を構ってくれというアピールよりも権力の名残としても圧を掛けたほうが効きそうだったと考え直そうともしていたところだ」
「茅間に同調しなくて結構です」
 祐の声がにわかに大きくなると喜一郎は身をひらりと躱してから、ふざけることをすっかりとやめた。
そして自身の声を聞き入れてもらえるように真摯な態度を示すと、蔵の出入り口である敷居を跨ぎながらゆっくりと語ったのである。手は降参を示すように胸の高さに掲げられていた。
「おっと、怖い顔をしないでおくれ。共に来てくれたら、そりゃあ嬉しいがね。まあ、なんだ。無理強いをしても結局は軋轢になるだけだ。たしかハラスメントとかいうのだったかか、それ。たまに遊びにきてやってもいいか、というふうに帰ってもらえねば意味がない」
「おれも大体はそうだっていつも言っているのだけどさあ」
 祐がキッと伊三路のほうを見ると、楽しげに笑いながらそばについていた。喜一郎が反対側へ寄ると、まるで連行をされる構図さながらができあがっている。
「ただな、君と仲良くなりたいヤツもいるということは知っておいて損はないだろう? 私はたとえ旧知の孫相手だとしてもなかなかフレンドリーではないぞ。そういう奴らは当然そこらじゅうにいるが、もしそんなに優しいじじいとして名が通っていたら町中の子どもらが正月にポチ袋を持参することになる。手間はかけんから中身だけ入れてくれと初詣かのような混雑で押しかけてくるぞ」
例え話としつつも自身に掠める話題を振られ、なおも涼しい顔をする喜一郎に観念した祐は存分に歯噛みしたあとから観念して肩の力を抜いた。
「……こちらに来てから大人数は慣れていません。まだ付き合いの浅い方ばかりですし、お手柔らかにお願いします」
「無礼講だ芸をしろ、などとは言わん。安心しなさい」
二人に両脇を固められ肩身を狭くしながら祐は「それを要求するとご心配の通り強烈なハラスメントになりますからね」と、遠い場所をみるような渋い顔で語るばかりだった。



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